新緑が眩しい5月、ゴールデンウィーク。
渓流釣り師にとって、この時期は期待と不安が入り混じる特別な季節です。
水温の上昇と共に魚の活性が上がる「適水温期」であると同時に、多くの釣り人が川に立つ「ハイプレッシャー期」でもあるからです。
「連休の揖保川は、さすがに厳しいか?」
そんな予感を抱きつつも、兵庫県が誇る清流・揖保川(引原川本流)へ向かいました。
狙うは、本流育ちの幅広アマゴ。
今回は、釣り荒れ必至のゴールデンウィークにいかにして一匹の美しい魚と出会うか、その苦闘と試行錯誤のプロセスを余すところなくお伝えします。
釣果そのもの以上に、現場で感じた「川の変化」や「魚との知恵比べ」の記録が、皆さんの次の釣行のヒントになれば幸いです。
それでは今回の釣行を振り返っていきます。
【状況分析】揖保川本流のGW攻略戦:先行者との知恵比べ
午前6時。薄明かりの中、揖保川の上流域である引原川本流に到着しました。
狙っていたのはダム手前の「鉄板ポイント」。
実績が高く、大型が出ることで知られる一級ポイントですが、車を走らせた私の目に飛び込んできたのは、既に停まっている先行者の車でした。
「やはり、甘くないか」
人気の渓流において、早朝の場所取り合戦は避けて通れません。
特に大型連休ともなれば尚更です。
ここで無理に入渓したり、近くで竿を出したりするのはマナー違反であり、お互いの釣果を下げるだけ。
私はすぐに気持ちを切り替え、下流エリアへの移動を決断しました。
移動先のポイントに到着し、川の様子を観察して驚きました。
前回の釣行(4月)で悩まされた、川底を覆い尽くす「青藻」がきれいに消失していたのです。

前回は川全体が緑一色で、仕掛けを流すたびに藻が絡みつくストレスフルな状況でしたが、今回は石本来の色が見えています。
これは、数日前の降雨による増水が、川底を洗い流してくれたおかげでしょう。
「水況は回復している」
そう確信し、期待を胸に入渓しました。
先行者の姿もなく、ここからが本当の勝負です。
【実釣】沈黙を破る一尾:水温上昇と食わせのアプローチ
仕掛けをセットし、第一投。
今回は効率を重視し、現場での川虫採取は行わず、市販の「ブドウ虫」を選択しました。
白く目立つブドウ虫は、スレた魚には警戒されるリスクもありますが、朝一番のサーチベイトとしては優秀です。
しかし、期待とは裏腹に反応はありません。
「2日前の雨でリセットされたはず」という読みは外れたのか?
それとも、既に誰かに叩かれた後なのか?
ここで水温計を取り出します。
表示は11℃。 渓流魚、特にアマゴにとって適水温と言われる範囲に突入しています。

低水温で動けなかった解禁当初とは違い、魚は間違いなく動ける状態です。
「魚はいる。食わないだけだ」
そう自分に言い聞かせ、アプローチを微修正します。
流れの芯だけでなく、流芯脇のヨレ、石裏の反転流など、ピンスポットを丁寧に、かつ執拗に攻めます。
集中力を高めて流していると、目印がふっと止まりました。
すかさずアワセを入れますが、ギラッと銀影が反転してフックアウト。
目測20cmクラス。
「食いが浅い…」 前回からの課題である「フッキングしない病」が頭をよぎりますが、落ち込んでいる暇はありません。
ポイントを少し下流へ移し、瀬尻の流れが緩む場所。
ブドウ虫を流れに乗せ、自然に漂わせた瞬間、目印が明確に引き込まれました。
「今度こそ!」
一呼吸置いてアワセを入れると、確かな重量感が手元に伝わります。
0.5号の水中糸を信じ、慎重かつ強引に引き寄せ、一気にフィニッシュ。タモに収まったのは、パーマークが鮮やかな22cmの良型アマゴでした。

写真では伝えきれない、本流魚特有の体高のある魚体。
朱点も鮮やかで、これぞ揖保川のアマゴという風格です。
その後、15cmクラスのチビアマゴを追加しましたが、良型はこの一匹のみ。
脱渓時に揖保川の名手とお話しする機会がありましたが、やはり「今日は厳しい」とのこと。
この一匹の価値を噛み締めました。
【転戦】竿抜けポイントを探して:夏日直前の本流ランガン
陽が高くなるにつれ、状況はさらに変化します。
朝6時の時点で6℃だった気温は、9時には20℃近くまで上昇。
ウェーダーの中は汗ばむほどの陽気、完全に「夏日」です。
人間にとって暑いこの急激な温度変化は、魚にとってもプレッシャーとなります。
朝マズメのゴールデンタイムは終了。
ここからは「足で稼ぐ釣り」へのシフトが必要です。
「誰もが知るポイントは、既に叩かれている」 そう仮定し、本流のさらに下流部、入渓が困難な「竿抜けポイント」を目指しました。
藪を漕ぎ、崖を降り、ようやく水辺に立ちます。
渓相は抜群。深場と瀬が絡み合い、いかにも大物が潜んでいそうな雰囲気が漂っています。

しかし、現実は非情でした。
ここぞというポイントに仕掛けを投入しても、返ってくるのは沈黙のみ。
釣れるのは時折混じるチビアマゴだけ。

道中、駐車スペースにはちらほらと釣り人の車が見られました。
やはりGW、どこもかしこも人が入っているようです。
「竿抜け」と思った場所も、私の前に誰かが入っていたのでしょう。
【考察】マッチザハッチの壁:羽虫の大量発生が示すヒント
諦めきれず、さらに場所を移動。 最後に入ったのは、かつてイベント等で放流も行われていたメジャーポイントです。


水量は申し分なく、雰囲気も最高。
しかし、ここではチビアマゴのアタリすらありませんでした。
ふと足元の岸辺に目をやると、ある異変に気づきました。
水面や岸辺に、おびただしい数の羽虫(カゲロウ類)の死骸が浮いていたのです。
ここで一つの仮説が浮かび上がります。
- カゲロウの大量ハッチ(羽化)が発生していた。
- アマゴの意識は、水面を流れる小さな羽虫(ドリフター)に集中していた。
- その結果、私が流す大きな「ブドウ虫」は無視された、あるいは異物として警戒された。
もしこの仮説が正しいなら、今日の正解は餌釣りではなく、マッチザハッチを意識した「フライフィッシング」や「テンカラ」、あるいは極小の川虫を使ったミャク釣りだったのかもしれません。
自然界は常にヒントを出しています。
「釣れない」という結果の裏には、必ず理由がある。
この羽虫の存在に気づくのがもう少し早ければ、仕掛けや餌の選択を変え、違う展開に持ち込めたかもしれません。
これも渓流釣りの奥深さであり、難しさです。
釣行のまとめ:次なる挑戦へ向けて
今回のGW揖保川釣行、最終的な釣果はアマゴ5匹(良型22cm×1匹、リリースサイズ×4匹)という結果でした。
正直なところ、「爆釣」とは程遠い厳しい一日となりましたが、得られた情報は少なくありません。
- 青藻の解消: 川底の状態は良くなっており、今後の降雨次第でさらに状況は好転する。
- 水温の上昇: 11℃を超え、魚は動ける状態にある。朝夕のマズメ時がより重要になる。
- 食性の変化: 羽虫の発生により、魚の捕食対象が変化している可能性がある。次回は川虫採取の手間を惜しまない、あるいは毛針の準備が必要。
持ち帰った唯一の良型アマゴは、塩焼きにして子供たちの胃袋へ。
「美味しい!」という声が、疲れた体への何よりの報酬です。
渓流釣りは、自然との対話です。
思い通りにいかないからこそ、次の一匹が愛おしい。
釣り荒れの本流で出会えたあのアマゴの感触を手に残しつつ、次回は「ツ抜け(10匹以上)」を目指してリベンジしたいと思います。
皆さんも、新緑の美しい揖保川へ出かけてみてはいかがでしょうか。
厳しい状況でも、ふとした瞬間に宝石のような魚と出会える感動が、そこには待っています。




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