キリッと冷えた空気が頬を刺す12月下旬。
多くの釣り人が竿を納めるこの時期ですが、投げ釣り師にとっての「熱い季節」はこれからが本番です。
今回のターゲットは、冬の投げ釣りの女王「カレイ」。
独特の重量感と、食味の良さで多くの釣り人を魅了してやまないこの魚を求めて、関西屈指の好ポイントである神戸・塩屋海岸へ足を運んできました。
「冬の海でじっとアタリを待つなんて寒くないの?」 そう聞かれることもありますが、竿先に出るドラマチックな反応を一度味わえば、寒さなど吹き飛んでしまいます。
今回は、塩屋海岸での実釣レポートと共に、初心者の方でも楽しめる「投げ釣りの基本」や「カレイを釣るためのコツ」を余すことなくお伝えします。
読めばきっと、週末に海へ行きたくなるはずです。
投げ釣りとは?初心者でもわかるカレイ釣りの魅力と生態
釣行レポートに入る前に、まずは今回の釣り方である「投げ釣り」と、ターゲットの「カレイ」について少し解説しましょう。
投げ釣り(サーフキャスティング)の基本
投げ釣りとは、リール竿に重たいオモリ(天秤)とエサのついた仕掛けをセットし、海岸や堤防から沖に向かって「遠投」する釣り方です。

ルアー釣りのように常に竿を動かす必要はなく、一度投げたら竿掛けに置いて、魚がエサを食べるのをじっくり待つ「待ちの釣り」スタイルが基本となります。
初心者の方にもおすすめな理由は、以下の3点です。
- シンプルな仕掛け: 複雑な操作が少なく、誰でも始めやすい。
- 大物が狙える: 岸からでは届かない沖の深場を探れるため、思いがけない大物が釣れることも。
- のんびり楽しめる: アタリを待つ間、海を眺めてコーヒーを飲んだり、友人と談笑したりできる。
ターゲット「カレイ」の生態と狙い目
カレイは砂泥底を好む魚で、普段は砂に潜って目だけを出して獲物を待ち伏せしています。
カレイ釣りで特に重要と言われているのが「潮(しお)」の動きです。

一般的に、「カレイは潮止まり(しおどまり)前後が最大のチャンス」と言われています。
潮止まりとは、満潮や干潮のタイミングで潮の流れが緩やかになる時間帯のこと。
普段、流れが速い場所では砂に潜っているカレイも、流れが止まるとエサを求めて活発に動き出す習性があるのです。
今回の釣行でも、この「潮止まり」の時間を計算に入れてプランを立てました。
神戸・塩屋海岸はどんな釣り場?マコガレイ・イシガレイの聖地
今回訪れたのは、兵庫県神戸市垂水区に位置する「塩屋海岸」です。
国道2号線とJR神戸線・山陽電鉄が並走するすぐ南側に広がる、東西に長い砂浜です。
塩屋海岸の特徴
この釣り場の最大の特徴は、「潮流の速さ」と「変化に富んだ海底」です。
明石海峡に近いため潮通しが抜群に良く、魚の活性が高いのが魅力。
さらに、沖には「シモリ」と呼ばれる岩礁帯が点在しており、魚の隠れ家が豊富にあります。
狙えるカレイの種類
塩屋海岸でメインとなるカレイは以下の2種類です。
- マコガレイ: このエリアの代表格。肉厚で甘みがあり、煮付けにすると絶品です。
- イシガレイ: 背中に石のような硬い突起があるのが特徴。50cmを超える大型化もしやすく、強烈な引きが楽しめます。
アクセスも良く、電車釣行もしやすい塩屋海岸ですが、近年は人気が高騰しています。
果たして今回は希望のポイントに入れるでしょうか。
夜明け前の静寂とコーヒーブレイク。絶好の釣り日和に期待を込めて
釣行当日は12月下旬。天気予報は「快晴」、風も穏やかな絶好の釣り日和です。
冬の釣りにおいて「風がない」というのは、それだけで勝率が上がるほど重要な要素です。
朝6時前、現地到着
夜明けのプライムタイム(朝マズメ)を逃さないよう、まだ真っ暗な朝6時前に釣り場へ到着しました。
はやる気持ちを抑えて海岸へ降りると……
「うわっ、すごい人だ!」
ヘッドライトの明かりが海岸線に点々と見えます。
足場の良い平らな護岸エリアや、実績の高いポイントはすでに先客で埋め尽くされていました。
さすがは人気の塩屋海岸、カレイ師たちの情熱は冬の寒さも関係ありません。
しかし、焦る必要はありません。
塩屋海岸は全体的に魚影が濃く、どこから投げてもカレイが釣れるチャンスがあるのが良いところ。
少し歩いて、空いている砂浜エリアに釣り座を構えることにしました。

準備と作戦
本日の潮回りは、10時半頃が満潮の潮止まり。
ここが一番の勝負所になります。
まだ薄暗い中、タックルの準備を進めます。
今回のエサは、動きでアピールする「青虫(アオイソメ)」と、強烈な匂いで寄せる「マムシ(本虫)」の2種類を用意しました。
これをミックスして針に付ける「ミックス掛け」でアピール力を最大化します。
「よし、準備完了。でも、まだ投げないでおこう」
暗いうちにキャストすると、夜行性のアナゴが高確率で掛かってしまい、仕掛けをグチャグチャにされることが多いのです。
空が白むまでのわずかな時間、持参した魔法瓶から熱いコーヒーを注ぎます。
波の音だけが響く暗闇の中で飲む、熱々のコーヒー。
冷えた体に染み渡るこの一杯も、投げ釣りの醍醐味の一つです。
釣り開始!フグの猛攻と、仲間に訪れた歓喜の瞬間
東の空が紫色からオレンジ色に変わり始めました。
いよいよ釣り開始です。
二本針の投げ釣り仕掛けにたっぷりとエサを付け、沖に向かってフルキャスト!
「シュッ!……ドボン」
2本の竿を出し、三脚に並べてアタリを待ちます。
塩屋海岸の面白いところは、そこまで飛距離を出さなくても釣れることが多い点です。
過去には、足元の底が透けて見えるような近距離(通称:力糸の距離)で良型が釣れた経験もあります。
遠投派も近投派も楽しめる、懐の深い釣り場なのです。
最初の訪問者は…
キャストから数分後、休憩していると早速、竿先につけた鈴が鳴り響きました。
「チリリン!」
静寂を破る鈴の音。
釣り人にとって、世界で一番美しい音色かもしれません。
「早速きたか!?」 期待を込めて竿を手に取ると、竿先を激しく叩くような「ガン!ガン!」というアタリ。
「うーん、この叩き方はカレイじゃないな…」
リールを巻くと、重量感はかなりあります。
しかし、カレイ特有の「底に突き刺さるような締め込み」がありません。
波打ち際に見えたのは、白いお腹。
上がってきたのは、丸々と太った巨大なフグでした。
「君だったか…」 ハリス(釣り糸)を噛み切られる厄介者ですが、魚の活性がある証拠です。
丁重にお帰りいただきました。
我慢の時間と、ついに訪れた本命
その後もコンスタントに鈴は鳴るものの、正体はフグばかり。
回収した仕掛けの針が無くなっていたり、ハリスがボロボロにされていたりと、フグの猛攻に苦戦を強いられます。
そんな中、時計の針は9時を回りました。
一緒に釣行していた友人の竿に、これまでとは違うアタリが出ました。
「チョン、チョン……ググッ」
前アタリの後に、竿先がゆっくりとお辞儀をするような重たいアタリ。
友人が大きくアワセを入れると、竿が綺麗な弧を描きました。
「これは間違いなくカレイ!首振らないし、重い!」
興奮気味にリールを巻く友人。
波打ち際に姿を現したのは、茶色いひし形の魚体。
31cmの立派なマコガレイです!
「やった!やっぱりいた!」 厚みのある見事な魚体に、周りの釣り人からも注目が集まります。
沈黙の海
「時合(じあい)が来たぞ!次は自分の番だ!」 このチャンスを逃さまいと、私もエサを新鮮なものに付け替え、同じポイント付近へ打ち返します。
しかし、釣りとは不思議なもので、期待すればするほど反応がなくなるもの。
先ほどまで元気だったフグのアタリすら途絶え、海は沈黙してしまいました。
満潮の10時半を過ぎても、私の竿先はピクリとも動きません。
ドラマは最後に待っていた!撤収間際の奇跡
時刻は11時。
お昼も近づき、周りの釣り人たちも少しずつ片付けを始めています。
「今日はボウズ(釣果なし)かな…仲間のカレイが見られただけでも良しとするか」
諦めムードの中、撤収作業に入ります。
1本目の竿を片付け、最後の1本を手に取りました。
「ん?なんか重い?」
リールを巻き始めると、ズシリとした重量感があります。
しかし、魚が暴れる感触はありません。
「また海藻かゴミでも引っ掛けたかな?」
期待せずに淡々とリールを巻いてきます。
仕掛けが波打ち際に近づき、残り20メートルほどになったその時です。
グググッ!グーン!
突然、生体反応が手元に伝わり、竿先が海面に突き刺さりました。
「え!?魚だ!!」
慌てて竿を立て、慎重に寄せます。
海藻の塊と一緒に上がってきたのは、紛れもなく本命のカレイ!

25cmのマコガレイでした。
サイズこそ友人の31cmには及びませんが、最後の最後で姿を見せてくれたことが何より嬉しい一匹です。
どうやら、アタリが出ないままエサを食い込み(居食い)、そのままじっとしていたようです。
「アタリを見てアワセる」というプロセスはありませんでしたが、この「何か付いてるかも?」という巻き上げ時のドキドキ感も、投げ釣りの醍醐味の一つと言えるでしょう。
思わぬ釣果に、気分上々で納竿となりました。
冬の味覚、カレイの煮付けに舌鼓
今回の塩屋海岸釣行、終わってみれば私と友人でマコガレイ2匹という素晴らしい結果になりました。
【今回の釣果】
- マコガレイ 31cm(友人)
- マコガレイ 25cm(私)
- 巨大フグ(リリース多数)
【釣行データ】
- 場所:神戸市垂水区 塩屋海岸
- 時期:12月下旬(快晴・微風)
- 時間:6:00〜11:00
- 潮:中潮(満潮 10:30頃)
釣れたカレイは「煮付け」で
帰宅後、釣れたカレイはその日のうちに調理しました。

カレイと言えば、やはり王道の「煮付け」に限ります。
- ウロコと内臓を丁寧に取り除き、皮目に飾り包丁を入れる。
- 酒、醤油、みりん、砂糖、生姜を入れた煮汁を沸騰させる。
- カレイを入れ、落とし蓋をして中火で10分ほど煮込む。
- 最後に煮汁を回しかけながら照りを出して完成。

久しぶりに食べましたが、冬のマコガレイは身がふっくらとしていて、脂もしっかり乗っています。
上品な白身と甘辛いタレの相性は抜群。
「おいしい!」と子供たちが箸を伸ばし、あっという間に骨だけになってしまいました。
これからさらに水温が下がると、カレイは産卵のために接岸し、大型が狙える「乗っ込み」のシーズンに入ります。 寒い冬ですが、防寒対策を万全にして、熱いコーヒーと夢を詰め込んだクーラーボックスを持って、海へ出かけてみてはいかがしょうか。
あの「チリリン!」という鈴の音が、あなたを待っていますよ!


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