冬の寒さが厳しさを増す頃、琵琶湖の湖岸ではある「熱い」イベントが繰り広げられているのをご存じでしょうか? それは釣り竿を使わず、網一本で魚を捕る「ワカサギ掬い」です。
「え?ワカサギって氷に穴をあけて釣るものじゃないの?」
そう思われる方も多いでしょう。
しかし、琵琶湖では、産卵のために接岸してきたワカサギを、なんとタモ網ですくって捕まえることができるのです。
市場で買えば高級魚、食べれば絶品のワカサギが、条件さえ合えば驚くほど簡単に、しかも大量にゲットできる夢のような遊び。
今回は、昨年のボウズ(収穫ゼロ)から一転、一晩で約1000匹という驚異的な釣果を叩き出した実釣レポートと共に、必要な装備やポイント選びのコツを余すところなく紹介します。
ワカサギ掬いとは?
「ワカサギ掬い」とは、その名の通り、夜間にライトで水中を照らし、琵琶湖の湖岸や流入河川を泳いでいるワカサギをタモ網ですくって捕獲するアウトドア・アクティビティです。
釣り(フィッシング)とは異なり、魚とのダイレクトな駆け引きや、狩猟本能をくすぐる「ハンティング」の要素が強いのが特徴です。
そして、特別な技術がなくても、ポイントとタイミングさえ合えば、子供から大人まで誰でも楽しむことができます。
ワカサギという魚の生態と特徴

ワカサギ(公魚)は、キュウリウオ目キュウリウオ科に属する淡水魚です。
細長いスマートな体型と、透き通るような美しい魚体が特徴で、その姿は「湖の妖精」とも称されます。
本来は海と川を行き来する回遊魚ですが、琵琶湖のワカサギは一生を湖で過ごす「陸封型」です。
寿命は主に1年(年魚)で、春に生まれたワカサギはプランクトンを食べて急速に成長し、冬には10cm〜15cmほどの成魚となります。
なぜこの時期、岸に寄ってくるのか?
普段、ワカサギは水深のある沖合の深場を回遊しています。
しかし、冬から早春(12月下旬〜3月頃)にかけて、産卵のために浅瀬へと大移動を開始します。
彼らが目指すのは、砂利や砂地の浅瀬、または河川の河口付近。
ここで卵を産み付けるために、夜になると驚くほど岸際まで接岸してくるのです。
「ワカサギ掬い」は、この産卵シーズンの習性を利用した、まさに冬限定のプレミアムな遊びなのです。
産卵を控えた個体は脂が乗っており、卵を持っているメスも多いため、味も格別です。
ワカサギ掬いに必要なもの
ワカサギ掬いは比較的軽装備で始められますが、真冬の夜、水辺での活動となるため、装備選びは「快適性」と「成果」に直結します。
ここでは、実際に私が使用して「これは必須!」「これはあった方がいい」と感じたアイテムを6つ紹介します。
ウェーダー(または長靴)

足元の装備は最重要項目です。
なじみがない方には一般的な「長靴」でも十分に楽しめます。
長靴はお手軽で、着脱も簡単、車に積んでおけばすぐに始められる機動力が魅力です。
しかし、本気で数を取りたい、あるいは混雑を避けて竿抜けポイントを狙いたいのであれば、私は断然「ウェーダー」をおすすめします。
特に胸元まである「チェストハイタイプ」が最強です。
長靴では水深20cm程度までしか入れませんが、ウェーダーがあれば腰の深さまで攻めることができます。
後述の実釣レポートでも触れますが、この「あと一歩奥に行けるか」が、10匹で終わるか1000匹捕れるかの分かれ道になる場面が多々あります。
また、単純に防寒性能としてもウェーダーは優秀ですし、長靴と違って水の侵入を気にすることなく動き回れます。
タモ(網)
魚を捕るための主役道具です。
基本的にはホームセンターや釣具屋で売っている一般的な魚取り用のタモで問題ありません。
おすすめのスペックとしては、網の形状が「D型(半円状)」になっているもの。
先端がフラットになっているため、湖底に張り付いたワカサギを地面ごとさらうのに適しています。
また、網のフチに「ガード」がついているタイプは、砂利や石との摩擦で網が破れるのを防いでくれます。
柄の長さは1m〜1.5m程度あれば十分です。
あまり長すぎると重くなり、片手での操作性が落ちます。
ちなみに、この道数十年の玄人(プロ掬い師)たちは、「エビ採り網」や「手製のタモ」を使っています。
これらは枠が小さく、柄が細くて軽いため、水中の抵抗が少なく、素早いワカサギの動きに瞬時に対応できるのです。
初心者はまず市販のD型タモから始めましょう。
バケツ
捕ったワカサギを入れる容器です。
普通のポリバケツでも代用可能ですが、おすすめは「釣り用のメッシュ蓋付き水汲みバケツ」です。 ワカサギは跳ねる力が意外と強く、オープンなバケツだとせっかく捕った魚が飛び出してしまうことがあります。
メッシュ蓋があればその心配はありません。
また、水が汚れてきた際に、蓋をしたまま湖水に沈めれば簡単に水の入れ替えができるのも大きなメリットです。
ヘッドライト
夜の湖面を照らし、ワカサギを見つけるための「目」となる道具です。
ここはケチらず、「できるだけ光量が大きく明るいもの(ルーメン数が高いもの)」を選んでください。
明るさは正義です。
水中の視認性が段違いに変わります。
また、機能として「赤色灯モード」がついているとなお良いでしょう。魚は赤い光を認識しにくいと言われており、警戒心を与えずに接近できる可能性があります。
また、予備の電池も必ず持参しましょう。
寒さで思っているよりも電池の消耗が早くなります。
手袋

盲点になりがちですが、必須アイテムです。
気温は氷点下前後、水温も極めて低い環境です。
素手で濡れた網や魚を触っていると、あっという間に指先の感覚がなくなり、痛みすら感じてきます。
なお、軍手は濡れると逆に冷たくなるのでNGです。
水に濡れることを前提とした、ダイビングや釣り用の「ネオプレン」や「クロロプレン」素材の手袋を用意してください。
保温性が高く、濡れても体温を逃がしにくい構造になっています。
クーラーボックス
成果を美味しく持ち帰るための必需品です。
冬場なので、高性能な真空パネルなどの高級クーラーは必要ありません。
発泡スチロール製や、100円ショップで売っている簡易的なクーラーボックス(保冷バッグ)で十分機能します。
保冷剤や氷を少し入れておけば、鮮度を保ったまま自宅まで持ち帰ることができます。
ワカサギを入れておくジップロックも忘れずに。
ワカサギ掬いの時期・ポイント・コツ
道具が揃ったら、次は「いつ」「どこで」「どうやって」捕るかです。
ここが釣果を分ける最大のポイントです。
時期と時間帯
シーズンは12月下旬から3月いっぱいくらいまで。
特に、寒波が来て水温が下がった後の、風が穏やかな夜が狙い目です。
時間帯は日没後から夜明け前までいつでもチャンスはありますが、一般的には20時〜24時頃に活発に接岸する傾向があります。
ポイントの探し方
正直にお伝えします。
インターネットでいくら検索しても、「〇〇浜」といった具体的なピンポイント情報は出てきません。
これは皆さん意地悪をしているわけではなく、具体的な場所を公開することで人が殺到し、違法駐車やゴミ問題、騒音トラブルなどが頻発し、釣り場自体が閉鎖されるのを防ぐためです。
しかし、ヒントはあります。
今回私が向かったのは、「湖西(琵琶湖の西側)」エリア。
そして「琵琶湖大橋より北側」です。
ここでGoogleマップを開いて「航空写真モード」にしてください。
ワカサギが産卵のために好む場所は「砂利や砂地の浜」そして「流れ込み(河川)」です。

航空写真で湖岸線をなぞっていくと、砂浜が広がっている場所や、小さな川が湖に注ぎ込んでいる場所が見えてくるはずです。
「ここは車が止められそうだな」「ここは川の水が流れ込んでいて良さそうだな」 そうやって自分で予想を立ててポイントを探すのも、この遊びの醍醐味です。
魚好きのあなたなら、おのずと「ワカサギがいそうな場所」が見えてくるはずです!
掬い方のコツ
いざワカサギを見つけたら、焦らずに。
ワカサギの進行方向の少し前に網を構え、上から被せるように入れます。
そして、手前に引くように掬い上げます。
慣れないうちは、魚だけを掬おうとせず、「底の砂利ごとガバッと掬う」イメージで行うと成功率が高いです。
また、よく議論になる「ライトの明るさ」について。
「ヘッドライトで照らすと逃げるからダメ」「明るすぎるのはNG」という説があります。
これは半分事実ですが、気にしすぎて暗いライトを使うと、そもそも人間の目でワカサギを見つけられません。
実際にやってみた感覚では、光を当てても逃げない個体もいれば、逃げる個体もいます。
採れる総量への影響は極めてわずかですので、まずは「しっかり照らして見つけること」を優先してください。
それよりも重要なのは、「探索中は水の中に入らないこと」です。
岸を歩いて探す際、ジャブジャブと水に入ってしまうと、その振動と音で周囲のワカサギは一瞬で散ってしまいます。
見つけるまでは陸(おか)を歩き、見つけたらそっと水際へ。
これを徹底するだけで遭遇率は格段に上がります。
ワカサギ掬いの注意点
楽しいワカサギ掬いですが、近年はブームの過熱に伴いトラブルも増えています。
以下のマナーとルールを絶対に守ってください。
- 路上駐車の禁止:近隣住民の迷惑になるだけでなく、緊急車両の妨げにもなります。必ず正規の駐車場やコインパーキングを利用してください。
- 騒音への配慮:夜間の住宅地近くでの大声や、車のドアの開閉音は非常に響きます。「静かに楽しむ」が鉄則です。
- ライトのマナー:むやみに民家の方へライトを向けないでください。また、先行者がいる場合、その人のポイントを照らすのもマナー違反です。
- 安全管理:夜の湖は危険がいっぱいです。足元が滑りやすい場所や、急に深くなる場所もあります。決して無理をせず、ライフジャケットを着用するなど、自分の命は自分で守りましょう。
警察が出動するようなトラブルになると、その場所での採取が全面禁止になることもあります。
未来の釣り場を守るためにも、良識ある行動をお願いします。
いざ実釣!昨年の雪辱を晴らす湖西エリア探索
さて、ここからは実際の実釣レポートをお届けします。
今回向かったのは、前述の通り琵琶湖の湖西エリアです。
実は私、去年も意気揚々とこの地に乗り込んだのですが、タイミングが悪かったのか、場所が悪かったのか、一晩中あちこち走り回ったのにワカサギの姿を一匹も拝むことができないという、屈辱の完全敗北を喫しておりました。
「今年こそは……!」
その執念だけで、Googleマップとにらめっこし、風向きと湖流を計算して3か所のポイントを選定しました。
第一ポイントに到着したのは夜の21時頃。
車を降りると、凛とした冷たい空気が頬を刺します。
湖岸を見ると、ちらほらとヘッドライトの明かりが見えます。
どうやら他のハンターたちも入っているようです。
「人がいる=魚がいる可能性がある」ということ。
期待が高まります。
「去年のリベンジ、果たして……」
ヘッドライトを点灯し、静かに湖岸を歩き始めます。
水面を凝視すること数分。 キラッ。
ライトの光の中に、細長い銀色の影が横切りました。
「いた!!」
興奮を抑えつつ、おもむろに網を構えます。
ワカサギの動きに合わせて、バシャッ! 網の中を覗き込むと、そこにはピチピチと跳ねる美しい魚体。
記念すべき今シーズン一匹目をゲット!去年のあの苦労は何だったのかと思うほど、あっさりとした出会いでした。
安堵している暇もなく、次々と視界にワカサギが入ってきます。しかも単発ではなく、小規模ながら群れで泳いでいます。
「これはチャンス!」
群れの進行方向を読み、網をかぶせて一気に引き上げると、なんと一度に6匹ゲット!
網の中で銀色が踊る光景は、何度見てもテンションが上がります。
幸先の良いスタートでしたが、このポイントは有名なのか、後から団体客が入ってきました。

魚へのプレッシャーが高まりそうだったので、早々に見切りをつけて移動することにしました。
確変モード突入!河口部で見つけたワカサギの楽園
続いて向かった第2ポイントは、小規模な河川が湖に流れ込んでいる河口部です。

ここは足場が良く、駐車場からも近いためか、子連れのファミリー層がたくさんいました。
子供たちの楽しそうな声(もちろん夜なので控えめですが)が聞こえてきます。
空いているスペースに入らせてもらい、水中を照らします。
するとどうでしょう。
ここもワカサギの濃いエリアでした。
ライトの光の中を、コンスタントにワカサギが横切っていきます。
時折、数十匹の群れがサーっと足元を通過していくのが見えます。
「これなら子供でも簡単に掬えるな」
そう納得するほど、魚影が濃い。
まさに「取り放題モード」突入です。
夢中になって網を振ること約1時間。
バケツの中はすでに賑やかなことになっています。

数えてみると、この時点ですでに150匹ほど。
しかも、先ほどのポイントよりもサイズが良い!
12cm〜13cmクラスの、お腹がパンパンに膨れた良型ばかりです。
「これ、天ぷらにしたら最高だろうな……」 頭の中はすでに食卓の風景です。
驚愕のフィナーレ!「ウェーダーの特権」で掴んだ1000匹の釣果と食卓の幸せ
時刻は22時半頃。
正直、150匹もあればお土産としては十分すぎます。
寒さも限界に近づいてきました。
しかし、釣り人の性(さが)でしょうか。
「せっかくだから、目星をつけていた最後のポイントだけ見て帰ろう」と、第3のポイントへ車を走らせました。
結果から言えば、この判断が大正解、いや、大当たりでした。
場所は、とある水路の流れ込み部。
岸から水に入り、流れ込みを遡るように進んでいきます。
最初はポツポツと群れが見える程度で、「まあ、こんなもんか」と5匹ほどまとめて掬っていました。
しかし、水深が膝を超え、腰くらいの深さまで来た時です。
ライトが照らし出した光景に、私は我が目を疑いました。
「底が見えない……!?」
いいえ、底が見えないのではありません。
底を埋め尽くすほどの、おびただしい数のワカサギの群れが、絨毯のように敷き詰められて泳いでいたのです。
数千、いや数万匹はいるでしょうか。
視界一面がワカサギの壁です。
「うわぁ……」
思わず声が漏れます。
深さがあるため、網を底まで届かせるのが大変ですが、狙いを定めて一掬い。
ズシリと重い手ごたえ。

引き上げた網の中には、銀色の塊。
なんと多いときは一掬いで50匹ほどが入っています。
もはや「掬う」というより「汲む」レベル。
今まで必死に一匹ずつ追いかけていたのは何だったのか。
笑いが止まらないとはこのことです。
あっという間にバケツはパンパン。
入りきらないのでクーラーボックスへ移し、また掬う。その繰り返しです。

このポイントは、長靴では絶対に到達できない深さでした。
まさにこれこそ「ウェーダーの特権」。
装備への投資が、最高のリターンとなって返ってきた瞬間です。
結局、クーラーボックスが満タンになったところで強制終了。
家に帰ってから数えましたが、全部合わせると約1000匹という、信じられない釣果となりました。
実釣時間はわずか3時間ほど。
初めての人でも、群れにさえ当たれば100匹、200匹は余裕で超えられる。
それがワカサギ掬いのポテンシャルです。
帰宅後は、深夜の調理タイムです。
捕りたてのワカサギは臭みもなく、ウロコも気にならないので下処理も簡単。
サッと水洗いして、塩水で少しこすって洗えば準備完了です。

こんなに丸々と太ったワカサギもいました。
ワカサギ釣りでは絶対見かけないサイズです。

定番の「天ぷら」とこどもが大好きな「カレーから揚げ」にしました。

高温の油でカラッと揚げて、アツアツを口に放り込む。
サクッとした食感の後に広がる、上品な白身の甘みと、内臓のほろ苦さ。そして卵のプチプチとした食感。
「美味い……!!」
ビールが進まないわけがありません。
スーパーで売っているワカサギとは比べ物にならない、圧倒的な鮮度と生命力あふれる味。
自分で寒空の下、掬ってきたからこそのスパイスも効いているのでしょう。
残りのワカサギは小分けにしてジップロックへ入れ、冷凍庫へ。
これでいつでもワカサギが食べられます。

この時期だけの特別な体験、ワカサギ掬い。
Googleマップを片手に、あなただけのポイントを探しに出かけてみてはいかがでしょうか?
ただし、寒さ対策とマナーだけは忘れずに。
琵琶湖の冬の夜には、寒さを吹き飛ばすほどの熱い感動が待っていますよ!


コメント